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スイスから荷物が届いた。最近インテリアでも特に家具にこだわる人が増えているし、デザインに対しての意識も
高まってきているせいか、書店には「お気に入りの椅子」とか、「最初に買うべき椅子」などと銘打った関連本が
沢山並んでいるが、僕のお気に入りはハンス・ウェグナーだ。数年前にウェグナーの椅子を購入して以来、その
座り心地と製品力の高さに惚れ込んだ。
到着した椅子たちはスイス・ポストのご大層な箱に入って届いた。見かけによらず重くなく、配達してくれた郵便
局の人も「意外に重くないですね」と言っていた。梱包を解いてみると、1950年に発売されたものにしてはかなり
状態がよく、「良い買い物をしたっ!」と喜ぶ。ウェグナーの椅子にも山ほど種類があり、特に日本ではYチェア
と呼ばれる椅子がロング・セラーで六本木の新国立美術館にも多数置いてあるが、僕は実際に今まで使われて
きた椅子が好きで、更には復刻されたりしていない椅子が好きだ。この椅子も、北欧の家庭で50年代から使われ
てきた椅子で、小さい傷がついているが、その家庭で使われてきた年輪が刻まれているのが良いのだ。
何と言ってもウェグナーの椅子の素晴らしさはその座り心地と造りの良さだと思う。釘を1本も使わずに造られた
これら椅子は、背中の当たりも非常に良く、足に繋がる部分とのジョイント部の十字架のように見える、見せる
接合部分も美しいと思う。年数を経てしか出せない木の色もこの椅子に彩りを添えている。60年弱の時間を経て
きた椅子とは思えないほどしっかりしている辺りに名前だけではないデザイナーと北欧のもの造りを感じる。
出来れば釘を使っていない家具、シンプルな家具、実際に使われていた良質な家具という
のが僕の家具を選ぶ基準だ。材質の特性と相性を考え、優れたデザインによって生み出さ
れた家具は素晴らしく良いのだ。
僕が気に入って実際に使っているのはハンス・ウェグナーの1950年代に製造された椅子で、
同型はリプロダクション(復刻)されていないものだ。無機質な、冷たい感じのスチール製の
椅子やケミカル素材で生成された摩訶不思議な形状にデザインされたものは、デザインが
先行しすぎていてなぜか気に入ることが出来ない。
制約があるなかから抽出された最小公倍数の必要美、そして実用性が良いものが良いの
だ。例えば、お金もあり広さもある家に住んでいたら好きな家具を何でも買えるのだが、し
かし1人で住んでいるのに椅子は12脚あって女王陛下の晩餐会に使われるようなテーブル
は必要ない。オーディオがあるのにヘッドレストにスピーカーが埋め込まれた安楽椅子も、
必要ではない。名前のあるデザイナーが作った椅子でも、座り心地が良くないなら、料理の
できない女房をもらって毎晩外食するのと変わらない(つまり、家にいる時間が減るのだ)。
先日あるTV番組でバイオリンのストラティバリウスの特集をやっていたが、その中で楽器の
職人がこんなことを言っていた。曰く、「楽器というものがいくら完璧に作られていても、それ
だけでは完璧にはならないのです。何千回、何万回と演奏されて、時間を経て次第に完成
されていくんです。」だそうだ。時間の経過によってしかもたらされないもの、一生足を踏み
入れないかもしれない国で誰かが買い求めて使っていた家具を使うことは、ある種の再利用
だし最近定着してきたロハス的行動だ。